
「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ第8部にあたる「ジョジョリオン」ですが、ファンの反応を見る限りでは賛否両論の印象があります。よく問題点として挙げられるのは矛盾や伏線放置。
確かに、矛盾や伏線放置といった明らかな問題点はありますが、賛否を呼んでいる原因はもっと他のところにあると思っています。
一言で言うとこの作品、「ジョジョらしくない」のです。「ジョジョ8部」を謳っておきながら、その内容はむしろ「ジョジョへのアンチテーゼ」ともとれる内容になっています。
つまり、ジョジョリオンはジョジョらしくない異色作であり、その独特さが賛否を招いています。しかし、独特さというのは人によっては魅力にもなり得るところなのです。それを知らずに読むのを避けてしまうのはもったいない。
というわけで、今回は「ジョジョリオン」を読もうか迷っている方、読んだけど面白さが分からなかった方向けに、この作品の特別さと魅力を伝えていきたいと思います。
なるべく核心には触れないように紹介しますが、ネタバレ注意でお願いします。
あらすじ
舞台は日本の杜王町。(4部とはパラレルワールド)震災で出現した「壁の目」と呼ばれる場所から、全裸で記憶喪失の男が土の中から這い上がってくるという異色の始まり方をします。この男(のちに東方定助と名付けられる)が今作の主人公です。

これの何が異色って、「血統」「受け継ぐ」を重んじてきたジョジョにおいて、素性不明の男が主人公になるということ。6部までジョースター家の黄金の精神が代々受け継がれてきていて、シーザーが祖父と父から受け継いだツェペリ魂でジョセフに解毒剤を託す場面が、名シーンとして語り継がれているにも関わらずです。
「ジョジョリオン」が描こうとしているテーマは、第1話でこう説明されています。
これは「呪い」を解く物語――
その始まり――
「呪い」とは ある人に言わせると自分の知らない遠い先祖の犯した罪から続く「穢れ」と説明する
あるいは――――坂上田村麻呂が行った蝦夷討伐から続いている「恨み」と説明する者もいる
また違う解釈だと 人類が誕生し物事の「白」と「黒」をはっきり区別した時にその間に生まれる「摩擦」と説明する者もいる
だがとにかくいずれのことだが「呪い」は解かなくてはならない
「ジョジョリオン」1巻より 広瀬康穂の独白
この作品のテーマは全てこの文に詰まっています。「先祖から続く穢れ」あるいは「善悪の区別をつけた時に生じる摩擦」...作中で描写される様々な呪いを「解く」。
矛盾が多いとよく言われますが、このテーマに関しては全編通してぶれていないと感じます。
そして、これを描くにあたって「東方定助」というキャラクターの設定が凄く活きてくるのです。
作者がこの作品を通して本当に「呪い」と言いたいものは何なのか?ぜひ考えながら読んでみてください。最後まで読んでその正体に気が付いた時、ジョジョリオンが「ジョジョのアンチテーゼ」である理由を理解できることでしょう。
「ジョジョらしくない」バトル
最初に述べたように、ジョジョリオンはとにかく「ジョジョらしくない」作品です。まずテーマからしてそうですし、ジョジョの目玉であるバトルもそう。
これぞジョジョ!って感じの頭脳戦の応酬のバトルよりは、「岸辺露伴は動かない」のようなサスペンス仕立てのバトルが多い印象です。
試しにいくつかバトルのさわりを書いてみると、こんな感じ。
- 定助が記憶をなくす前の自分の家とおぼしき場所に行くと、見知らぬ女の子がおびえた様子で風呂に入っている。部屋を散策していると、スリッパに画鋲が仕込まれていたり、タオルに針が埋め込まれていたりと、部屋の異常性に気づいていく。
- 通学途中「カツアゲロード」と呼ばれる不気味な場所に入る。そこの住民は、老人や女の子さえも、その場所由来の不思議な力を使って金を巻き上げようとしてくる。
- 誰かが落とした財布から金を盗むが、何故か使うたびに増えて戻ってくる。疑問に思いながらもキャバクラで豪遊していると、支配人に裏に連れていかれ、「利子」と称して5000万円以上ある大量の札束を押し付けられる。
こんな感じで、従来のジョジョの能力バトルというよりは「動かない」シリーズのような「奇妙な経験」を描くことに重点を置いたバトルが多いのです。
「自動追跡型スタンドが多くバトルがつまらない」などの意見が出るのは、これが原因です。「物を開けると襲ってくる」とか「顔や物が全て同じに見えるようにする」とか、怪異に近いスタンドが多いのです。
特に序盤は、頭脳戦を楽しむ従来の能力バトルとは違い、主人公の反撃が始まるまでの「奇妙な出来事」の部分をメインに楽しむものとなっています。
「ジョジョ8部」と銘打っている以上ジョジョらしくないバトルが続いたら否定的意見が出るのは当然ではあるのですが、サスペンスものとして見ると非常に面白いです。読む時は「ジョジョ」ではなく「岸辺露伴は動かない」を読んでいると思った方が良いかもしれません。
とはいっても、ジョジョらしいバトルも健在。中盤以降はそちらのニュアンスも強くなってきます。そしてそういったバトルがめちゃくちゃ面白い。「動かない」シリーズらしいサスペンスに従来のジョジョの能力バトルらしい、頭脳戦・心理戦の要素を盛り込んだ感じで、他のジョジョシリーズでは味わえない独創的なバトルに仕上がっています。
例
- クワガタを戦わせるという子供っぽいお遊びに見せかけて、互いに水面下でスタンドを駆使して頭脳戦を繰り広げる東方常敏戦
- 娘が連れてきたボーイフレンドにより家族が一人ずつ消されていき、男は家長を拷問しながら自身の真の目的を語り出す。最高のサスペンスホラー、田最環戦
- 主人公VS敵VS第三勢力の三つ巴の攻防で、それぞれが持っている情報で騙し合う心理戦を描いたプアー・トム戦
正義や悪の概念が無い
8部は(というか7部以降は)正義と悪の区別をしていません。
6部以前は少年誌ということもあって、「主人公が正義でラスボスが悪」という明確な定義が行われていました。DIOなんか3話目で「邪悪の化身」と呼ばれてます。
そのおかげで読者は「承太郎頑張れ!」と素直に応援でき、最後DIOが灰になるシーンで「良かったなあ」としみじみできるわけですが、8部はそうはいきません。
主人公のしていることは正しい事なのか?という疑念が常についてまわります。たとえ敵を倒しても「これが正しい選択だったのか?」とすっきりしないことが多いです。
でも、この読み味がジョジョリオンの魅力。自分が今正しい方向に歩けているかも分からない、出口の見えないトンネルを進むような感覚。だからこそ、そんな中で自分が「正しい」と思う選択をする登場人物たちが輝いてきます。
ラスボスについて
ラスボスに魅力が無いという意見があります。具体的には、「突然出てきた感がある」というものです。今までのジョジョでは早い段階でラスボスが明かされ、打倒ボスに向かって突き進む展開でしたが、ジョジョリオンはそうではありません。終盤になってようやく存在が示唆されます。
これには理由があって、8部のラスボスって「こいつを倒したらクリア」ではないんです。
DIOを倒せばホリィさんが助かる、ディアボロを倒せば組織を乗っ取れる、でも8部のラスボスは倒したところで苦難はまだついて回ります。
つまり、読者は定助の人生を一部だけ覗いているにすぎず、その中で最後に戦った敵を便宜上ラスボスと呼んでいるにすぎないのです。
だから、DIOなどと比べたらどうしても魅力は劣ります。でも、ジョジョ史上最凶の敵とも言える相手です。特に、倒し方は定助のキャラクター性を最大限活かしたものでグッときます。
ミステリーではない
最後に一つ。ジョジョリオンはサスペンスではありますがミステリーとしては描かれていません。確かに序盤は「定助の正体」を探ることが目的なのでミステリー風味ではありますが、集めた情報を基に推理するパートがあるわけではありません。なので、ミステリーと思って読まないでください。
特に「ジョジョのミステリー」と思って読んだら大事故を起こします。ジョジョでもないしミステリーでもないからです。「バトル要素が多めの『岸辺露伴は動かない』」だと思うのが良いです。
まとめ
私は単行本1巻から追っていた関係上「この伏線はこう活かされるはず」と次の巻が出るまでに予想を立てたら全く触れられずに終わり、ずっこけた覚えがあります。
でも、完結したからこそ言えます。ジョジョリオンが大好きだし、心から面白い作品です。今から一気読みする人はとても楽しめるのではないかと思います。
「ジョジョ」として読むと、何か違う…と感じるかもしれません。6部以前のように善悪の境がはっきりしているわけではありませんし、バトルもサスペンス寄りです。
しかし、サスペンスとして読んだ時の仕上がりは極上。「動かない」シリーズのように、荒木先生とサスペンスの相性は非常に良いのです。ただ、ミステリーとの相性は良くないので長期的に見ると内容に齟齬が生じたりしています。*1
ですが、「『呪い』を解く物語」というテーマは一貫しています。そこを見失わなければ内容の把握もしやすく、どんどんこの独特な世界観に引き込まれていきます。
もしこの記事を読んで気になった方はぜひ手に取ってみてください。
*1:8部の内容に否定的な人でも単一エピソードのクオリティは高いという評価は多い