
ジョジョ9部「The JOJOLands(ザ・ジョジョランズ)」の第1話を見て、衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。そこには、5部でジョルノが抹消するために戦い、ブチャラティの人生を壊した忌むべきものとして描かれていた麻薬を、主人公が平然と売りさばく姿がありました。
この描写でジョディオというキャラクターがよく分からなくなってしまった人もいると思います。
しかし、彼は何も考えずに小遣い稼ぎ目的で悪事に手を染めているのではありません。(実際、1話で娯楽として盗みを行うパコをゲス野郎と蔑んでいる)彼なりに考えて、信条に基づいて行動しています。それを理解すれば、彼の魅力が分かります。
雰囲気こそジョルノと似ていますが、キャラ造形は正反対です。というわけで、ジョルノと対比して、ジョディオというキャラクターを紐解いていくこととしましょう。
ジョルノとジョディオ
人格
人格は人生を決定づけるといっても過言ではないでしょう。まずここに大きな違いがあります。
ジョルノ
ジョルノは幼い頃から頭が良く、虐待やいじめへの抵抗を無駄なことだと理解していました。そうした性格から人の顔色をうかがうようになり、町の少年の憂さ晴らしに使われて、自分をこの世のカスだと信じるようになってしまいます。
寝ていて 夜 目を醒ますと母親が家にいない
1~2歳の子供にとってそれはどんな恐怖と絶望なのだろう......
...ジョルノは暗闇の中で泣いても無駄なので ただひたすらふるえていただけだった
(中略)
彼は自分がこの世のカスだと信じるようになり このままではジョルノが心のネジ曲がった人間に育っていく事は 誰が見ても時間の問題だった
「ジョジョの奇妙な冒険」47巻より
ジョディオ
一方ジョディオは反社会性パーソナリティ障害(サイコパス)の可能性があると診断されており、精神的に問題があることが示されています。
反社会性パーソナリティ障害の特徴として、「衝動をコントロールすることが出来ない」というものがあります。この人格がジョディオの人生を大きく変えていくこととなります。
自身の感情を押さえ付けていたジョルノと、感情のコントロールが出来ないジョディオ。人格からして、二人のキャラクター性は真逆です。
家庭環境
二人を取り巻く家庭環境も異なっています。
ジョルノ
ジョルノは母親からは育児放棄、義父からは殴るなどの虐待を受けており、家庭内に味方がいない状態でした。
ジョディオ
一方でジョディオは、母と兄から十分な愛情を注がれて育っていました。(父は描写が少ないので現時点では不明)
家族から愛されていないジョルノと、家族から愛されているジョディオ。つまり、ジョディオには守りたいものがあるということがポイントです。
社会環境
社会環境は似たものがあります。
ジョルノ
町の少年からいじめを受けていた。警官が弱者を守らない環境。
ジョディオ
兄ドラゴナが同級生からいじめを受けていた。警官は弱者を守らない。それどころか、職権を乱用して痴漢を働いたりしている。
二人を取り巻く社会は似通っています。自分や大事な家族がいじめを受け、警官はまともに仕事をしない。感情を押さえ付けて生きてきたジョルノはいじめを受け入れてやり過ごすようになりましたが、一方でジョディオは「感情のコントロールが出来ない」。違う選択をとります。
法律の力が意味をなさず、さらに、いじめっ子の両親は学校とバス会社に多額の寄付をしているので、学校側はいじめを黙認している。そんな状況に直面した彼は、自分の力で道を切り開くことを決意。いじめっ子たちが乗ったスクールバスに火を放ち、皆殺しにしようとします。

バス車内に生徒が持ち込んだペットがいたことですんでのところでとりやめましたが、当時11歳の子供とは思えない行動です。反社会性パーソナリティ障害の特徴の一つ「良心の呵責・欠如」を表したエピソードといえます。
しかし、この行動が結果的に不幸を招きます。学校とバス会社にはいじめっ子の両親の息がかかっていたため、保険会社が通常の10倍の保険金を支払うことになってしまいます。
保険会社に勤めていたジョディオの父は職を失って家を出ていき、母は女手ひとつで家族を支えなくてはいけなくなり、弱った一家はギャングに狙われるようになってしまいました。
救世主
窮地に陥った彼らを救ってくれた救世主といえる人物。これも正反対に異なります。
ジョルノ
ジョルノを虐待やいじめから救ってくれたのはギャングの男。ジョルノが偶然彼を助けたことで、義理を通してくれたのです。こうして彼は人を信じることをギャングから学び、ギャング・スターに憧れるようになりました。
アニメ版ではこのギャングの男が「女子供見境なく麻薬を売っていた男」をクズだと言ったため、そんな彼に倣ってジョルノは麻薬を抹消したいと思うようになったのでしょう。
ジョディオ
ギャングに救われたジョルノとは対照的に、ギャングに追い詰められていたジョディオ。そんな彼を救ってくれたのは校長でありながら裏社会で暗躍するメリル・メイ・チーという女性。彼女の下について犯罪に手を貸すことで、裏社会で信用される存在となり家族の安全を獲得します。

13話の回想だと彼女がスカウトしたところで終わってますが、ここから1話の冒頭の価値観説明に繋がります。
オレの年齢が(11)さいになった時
――どこからともなく近所の誰かに誘われて「パシリ」をやらされた
モノを「運んで」誰かに「渡す」だけ
ただそれだけの役割
それだけですごく褒められて 小遣いが貰えた
単純な役目を淡々とこなし 余計な事を言わなければ それだけで認められて信用される存在になって行った
「仕組み(メカニズム)」
信用の「仕組み」には力があって
法律という力が守ってくれなくても この街では「信用」が安全を保障してくれる
「The JOJOLands」1巻より ジョディオ・ジョースターの独白
皆うちの母の事が大好きだ
母は毎朝 安全に空港まで通勤できる
オレたち兄弟の守りがあるからだ
つまり オレと兄が母の社会的安全を陰で保障している
「The JOJOLands」1巻より ジョディオ・ジョースターの独白
この経験により、彼は「仕組み(メカニズム)」の頂点に立つことを決意。
ここでいう「仕組み(メカニズム)」とは権力やコネや信頼など、目には見えないが社会を動かす力のこと。(ドラゴナのいじめっ子は両親が学校やバス会社に多額の寄付をしていたことでいじめを黙認されていました。これも「仕組み」のひとつです)
法律がまともに働かない社会で生き抜き、上を目指すには、そんな社会の仕組みを受け入れたうえで、適合するように立ち回らなくてはいけない、と彼は考えているのです。
13話で彼の成績がビリであることが明かされますが、これは頭が悪いということではなく、勉強することに価値を見出していないんですね。1話の優等生の子がいじめられて学校に来なくなるという描写からも分かるように、この社会では「仕組み」こそが全てであり、真面目に勉強して良い大学に行くようなのし上がり方は出来ないというのが彼の考えです。
「大富豪になる」というのは「仕組み」の頂点に立った時の結果にすぎず、金持ちになること自体が目的ではありません。
大富豪というのは つまり―― 大金を稼げるという事もあるが
それよりも全然重要な事柄――
――やはり「仕組み(メカニズム)」
それは普遍的で たとえ敵がいても最初からすでに勝っているんだ
「仕組み」は奪われたり崩れたりもしない.........
富が流れ込んで来るこの世の「理」
「The JOJOLands」1巻より ジョディオ・ジョースターの独白
二人の救世主の決定的な違いは、ギャングは「恩を返す」形で助けてくれたが、メリル・メイは「犯罪に加担することで助けてやる」というギブ&テイクの形をとったこと。
正義の心を育むのであれば、ジョルノのように恩を返す形で助けてもらう方が良いのでしょう。しかし、偶然助けた男が義理堅いギャングだったなんて幸運はそう起きません。
ジョディオがメリル・メイと出会って犯罪に加担するようになったのは、窮地を自力で脱け出す道を見つけようとしたからです。
そして、この経験がジョディオの価値観を形作っていくことになります。
価値観・目標
ここまで来れば、二人の価値観・目標が違う理由がよく分かります。
ジョルノ
人を信じることをギャングから学んだ。そんな彼に倣って、子供に麻薬を流すようなギャングを倒したい。
ジョディオ
この世には「仕組み」があることをメリル・メイから学んだ。
腐敗した社会から自分と家族を守るため犯罪に手を貸して「仕組み」に適合した。さらに高みを目指して、「仕組み」の頂点にのし上がりたい。そのための一歩として彼女の下で麻薬を売ったり空き巣をしたりと悪事を働いている。
悪を打ち砕こうとする「正義」のジョルノに対し、悪を支配し、利用しようとする「巨悪」のジョディオと、正反対の方向のカリスマです。
ジョディオって悪?
結局ジョディオは悪なのか? これに関しては判断が難しい(というか出来ない)です。
7部以降のジョジョでは、善悪の判断が難しくなっています。6部までの主人公は「黄金の精神」と呼ばれる他者を助けようとする尊い精神を持っており、善人と手放しで呼べました。そんな彼らが、自分のために動く悪役を、スーパーヒーローのように倒すという展開が基本でした。
一方で7部以降の主人公は、みんな他人ではなく、自分の為に戦います。ジョニィは足を動かして過去を清算するため、ジャイロは納得して仕事に誇りを持つため、定助は自分の存在を証明するため。
むしろ敵陣営の方が、正しいことをしているように描かれています。国のために戦う大統領や、家族のために戦う常敏などです。
「生きる」とか「死ぬ」とか 誰が「正義」で誰が「悪」だなんてどうでもいいッ!
「遺体」が聖人だなんて事も ぼくにはどうだっていいんだッ!
ぼくはまだ「マイナス」なんだッ!「ゼロ」に向かって行きたいッ!
「遺体」を手に入れて自分の「マイナス」を「ゼロ」に戻したいだけだッ!
「スティール・ボール・ラン」18巻 ジョニィ・ジョースターのセリフ
ジョニィのこのセリフに表れているように、7部以降の世界では善悪なんて垣根は存在せず、法律や倫理観も関係ありません。全員が自分が正しいと思う行動をとるだけです(漆黒の意思)。
6部以前が人間ならではの「気高さ」から人間讃歌を表現しているのなら、7部以降は人間らしい「泥臭さ」から表現しています。
だから、ジョディオを善とか悪とかで簡単に分類することはできません。彼も、腐敗した社会に適応して自分と家族を守り、高みを目指すために正しいと思う行動をとっているだけなのです。
5部のパラレルワールドということは、むしろ5部とは真逆のテーマを描こうとしているということ。1話で麻薬を売る描写を入れたのはその意思表明でしょう。
悪を浄化する「黄金の精神」がジョルノの魅力なら、目的のため手段を選ばず。悪を支配しようとする「漆黒の意思」がジョディオの魅力です。
ディオとの血の繋がりはある?
「ジョディオ」という名前、ジョルノとの共通点から、ジョディオもこの世界でのDio(ディエゴ)と血縁があるのではないかと期待している方もいるのではないかと思います。
私の予想では、特に血縁はないのではないかと思います。
ではなぜディオが名前に入っているのかというと、彼の存在が「ディオがもし主人公(ジョースター家)になったら」というテーマで作られているからです。
思い返してみると、「仕組みの頂点に立つ」=「社会の頂点に立つ」はディエゴの目標、「大富豪になる」=「一番の金持ちになる」はディオの目標です。彼らが心半ばに達成できなかった目標を代わりに達成する代行者として、名前に「ディオ」が冠されているのだと思います。
まとめ
今回はジョルノと対比してジョディオの人間性や魅力を分析しました。第1話から麻薬を売る描写があったのには驚きましたが、それも彼が高みを目指すために考えを巡らせてのことです。
ジョルノとジョディオは似て非なる存在。でも、ジョルノだって運よくギャングに出会えてなかったら?メリル・メイのような人物にスカウトされていたら?
ジョディオと同じような考えと生き方をしていたかもしれません。そういう意味で、紙一重の存在でもあり、パラレルワールドのジョルノと呼ぶのにふさわしく、興味深いキャラクターだと思います。
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